Cognition-Aware
AI Experience

組織に「使われ続けるAI」を根づかせる
8Cフレームワーク

生成AIの価値は、モデルの性能だけでは決まりません。現場で日常的に使われ続けるかどうかで決まります。ところが実際には、概念実証(PoC)ではうまくいっても、本番運用になると利用が伸びず、期待した効果が出ないことが多いです。

PoCは成功しても、日常には根づかない理由

会議室でのデモは見事だったのに、数か月後のダッシュボードを見ると利用は伸びていない――そのような状況は珍しくありません。多くの場合、次のような人間側の摩擦が積み重なっています。

不安

情報漏えいや誤操作が怖いと感じると、最初の一歩が踏み出しにくくなります。仕組みとして安全でも、「安心だと感じられる体験」がないと使われにくいです。

例:誤って送信しても簡単に取り消せる/データの保存先が画面上でいつでも確認できる。

わからない

何を、どう始めればよいかが見えないと、初回の成功体験が生まれません。画面やメッセージが具体的に行動に導くことが大切です。

例:空の状態で「まずはこのテンプレートで試す」と提示する/エラー時に次の手順を短く示す。

自分ごと化できない

便利だと頭では理解しても、自分の仕事の目的や毎日の流れとつながらないと続きません。

例:個人の目標やルーチンと連携し、進捗が見える。

共有しづらい

使い方や成果が人に渡りにくいと、部門内で学びが広がりません。再利用のしくみがないと、成功が点で終わる傾向があります。

例:成果物をワンクリックで共有でき、テンプレートとして保存・公開できる。

これらは、Cognition-Awareの視点でまとめて扱えます。次の章では、8Cという具体的な設計項目に分け、三つの層でどう整えていくかをご説明します。

8Cを三層で整える

Foundation(基盤)/Individual Experience(個の体験)/Social Dynamics(社会的な広がり)

三層8Cでまとめることのメリット

8Cを三層で整理することで、段階的な改善アプローチが可能になります。多くの組織がAI導入で直面する「PoCは成功するが本番運用で伸びない」問題は、技術的な課題というよりも、人間の認知や感情に根ざした摩擦が原因です。

三層構造の最大のメリットは、基盤 → 個の体験 → 社会的な広がりという自然な発展プロセスを設計できることです。基盤が弱いと個の体験は根づかず、個が孤立すると学びは広がりません。逆に、基盤が整い、個の利用が日常化すると、共有と再利用が自然と増え、組織の知が育っていきます。

また、各層には明確なKPIとの対応関係があります。FoundationはActivation(初回成功)に、Individual ExperienceはRetention(継続)に、Social DynamicsはExpansion(横展開)に最も強く影響します。この対応関係により、数字の改善がどこに効くかを具体的に把握でき、投資判断と現場改善の両方に活用できます。

Comfort(怖くない・試せる)

Foundation

なぜ大事なのか:多くの人がAIツールを避ける理由は「失敗が怖い」「何をやっても大丈夫かわからない」という不安です。この不安が初回利用の最大の障壁となっています。

対策するとどう効果があるのか:失敗してもやり直せる仕組み、権限や境界の明確な表示、説明への簡単アクセスを用意することで、安心して触れられる環境が生まれます。これにより初回利用率(Adoption)が大幅に向上し、Activation(初回成功)率も改善します。

具体的な対策例:取り消し機能の常時表示、データ保存先の明示、ヘルプへのワンクリックアクセス、重要操作前の確認ダイアログ

Credible(仕組みで信頼できる)

Foundation

なぜ大事なのか:企業環境では「データがどこに行くのか」「誰がアクセスできるのか」への懸念が、AI導入を阻む最大要因の一つです。規約を読むだけでは安心感は生まれません。

対策するとどう効果があるのか:データの保存先・共有範囲・監査ログを画面上で常時確認でき、プライバシー設定を自分で選択できる環境を提供することで、信頼が構築されます。これにより企業での導入率が向上し、継続利用につながります。

具体的な対策例:データ保存先のリアルタイム表示、監査ログの自己照会機能、プライバシーレベルの選択肢、AI出力の根拠表示

Clarity(迷わない導線)

Foundation

なぜ大事なのか:「何をどう始めればよいかわからない」状態は、初回利用の最大の挫折ポイントです。空の画面や複雑なメニューは、ユーザーの意欲を削ぐ要因となります。

対策するとどう効果があるのか:空状態での明確な案内、サンプルデータでの体験、次のアクションの提示、エラー時の復帰手順を用意することで、初回成功体験が生まれます。これによりActivation率が大幅に向上し、継続利用への第一歩となります。

具体的な対策例:「このテンプレートで3分で試す」ボタン、サンプルデータの自動挿入、進捗バーの表示、エラー時の復帰手順

Compassion(文脈と気持ちに寄りそう)

Individual

なぜ大事なのか:同じ情報でも、ユーザーの状況や感情状態によって受け取り方が大きく変わります。技術的に正しい回答でも、タイミングや表現が合わなければ効果が半減します。

対策するとどう効果があるのか:ユーザーの履歴や文脈を理解し、適切な語調や説明順序で対応することで、受け取りやすさが大幅に向上します。これにより継続利用率(Retention)が向上し、ユーザー満足度も高まります。

具体的な対策例:説明モードの切り替え(詳しく/要点だけ)、前回の設定の再利用、心理的負荷を考慮した言い換え、状況に応じた提案

Commitment(毎日使う理由がある)

Individual

なぜ大事なのか:便利だと理解していても、自分の仕事や目標とつながらないと、AIツールは「たまに使う道具」で終わってしまいます。日常のルーチンに組み込まれない限り、真の価値は発揮されません。

対策するとどう効果があるのか:個人の目標や業務ルーチンと連携し、進捗が見える仕組みを提供することで、AIが「いつもの相棒」として定着します。これにより継続利用率(Retention)が大幅に向上し、生産性の向上も実現します。

具体的な対策例:個人目標との連携設定、進捗ダッシュボード、リマインド機能、「今日の一歩」提案、成果の可視化

Cheer(小さな楽しさがある)

Individual

なぜ大事なのか:仕事でのAI利用は、効率化が目的でも、使い続けるためには「心地よさ」や「小さな達成感」が必要です。単調で機械的な体験では、長期的な継続は困難です。

対策するとどう効果があるのか:達成時のさりげない演出、待機中の丁寧なフィードバック、学習の見える化などを提供することで、利用が「負担」から「楽しみ」に変わります。これにより継続利用率(Retention)が向上し、自然な利用習慣が形成されます。

具体的な対策例:完了時のアニメーション、進捗メッセージ、学習履歴の表示、連続利用日数の記録、次にできることの提案

Connected(成果を共有しやすい)

Social

なぜ大事なのか:個人の成功体験が他のメンバーに伝わらないと、組織全体のAI活用レベルは向上しません。共有のハードルが高いと、良い使い方や成果が埋もれてしまいます。

対策するとどう効果があるのか:ワンクリックでの共有機能、共同編集環境、テンプレート化の仕組みを提供することで、個人の成果が組織の資産として蓄積されます。これにより横展開(Expansion)が促進され、組織全体の生産性向上が実現します。

具体的な対策例:成果物のワンクリック共有、共同編集機能、共有リンクの権限設定、テンプレート登録機能、公開スペースの提供

Collective(学びがたまり標準化される)

Social

なぜ大事なのか:個人の工夫や成功事例が散在したままでは、組織の知として蓄積されません。共有された知識が標準化され、再利用され続ける仕組みがないと、同じ失敗が繰り返されます。

対策するとどう効果があるのか:テンプレートの審査・更新、ベストプラクティスの整理・配布、定期的な共有会の開催など、コミュニティとしての運用を整えることで、個人の学びが組織の標準として定着します。これにより横展開(Expansion)が加速し、組織全体のAI活用レベルが底上げされます。

具体的な対策例:テンプレート審査フロー、ベストプラクティス発行、定例共有会、Q&A機能、更新履歴の記録

三つの層は、基盤 → 個の体験 → 社会的な広がりの順で積み上げると効果が出やすくなります。基盤が弱いと個の体験は根づきにくく、個が孤立すると学びは広がりません。

指標設計と因果の考え方

測れる形にして運用します

なぜ指標設計が重要なのか

AI導入の成功は、気合いや空気感では測れません。定義と指標(KPI)を先に決め、現場と経営が同じ数字を見ながら進めることが重要です。多くの組織では、PoC段階では「使ってみた」という定性的な評価に留まりがちですが、本番運用では定量的な改善が求められます。

8Cフレームワークの優位性は、各CがどのKPIに効くかを明確に定義できることです。これにより、数字が悪い時に「何を改善すべきか」を具体的に特定でき、限られたリソースを最も効果的な場所に集中できます。また、改善施策の効果も数値で検証できるため、継続的な最適化が可能になります。

さらに、指標設計は投資判断の根拠としても機能します。AI導入のROIを正確に測定し、次の投資やガバナンス更新に反映させることで、組織全体のAI活用レベルを底上げできます。

KPIフロー

AI導入の成功は、Adoption → Activation → Retention → Expansionという4つの段階を順に通過することで実現します。各段階で適切な指標を設定し、継続的に改善することで、組織に「使われ続けるAI」を根づかせることができます。

Adoption
(採用)

初回利用者の割合

例:100名中60名が利用
→ Adoption 60%

Activation
(初回成功)

初回タスク完了率

例:80件中52件が完了
→ Activation 65%

Retention
(継続)

継続利用者の割合

例:30日後に35%が継続
→ Retention 35%

Expansion
(横展開)

共有・再利用の広がり

例:共同編集率25%
テンプレート再利用率向上

8CとKPIの関係

Foundation(Comfort/Credible/Clarity) は、Activationに最も強く影響します。最初の10分で不安が和らぎ、迷わず進める体験があるほど、初回の成功率が上がります。

Individual Experience(Compassion/Commitment/Cheer) は、Retentionを底上げします。自分ごと化でき、小さな楽しさがあり、気持ちよく続けられるほど、定着します。

Social Dynamics(Connected/Collective) は、Expansionを支えます。成果が渡りやすく、テンプレートが蓄積し、学びが標準化されるほど、自然に横へ広がります。

ダッシュボード運用の基本

週次でActivationRetention、月次でExpansionを確認します

指標は「よかった/悪かった」で終わらせず、どのCが足を引っ張っているかを仮説化し、次の改善に結びつけます

変化点(リリース、教育、ルール変更)があった週はメモを残し、数字との関係を振り返れるようにします

90日ロードマップ

PoC止まりから"日常運用"へ

フェーズA:パイロット(0〜30日)

目的:対象タスクで初回成功(Activation)を安定させること

対象は「頻度が高く、成果物が定型化しやすい業務」に限定

Foundationを最優先で整える(誤操作からのやり直し、データ境界の見える化)

毎日、初回完了率・誤操作率・ヘルプ遷移を見て、文言と導線を微調整

現場のチャンピオン(数名)を選び、改善提案→即修正の短いサイクルを回す

完了の目安:Activation 60〜70%程度、誤操作からの復帰成功率 80%以上

フェーズB:スケール(31〜60日)

目的:初回成功を継続(Retention)につなげること

Individual Experienceを強化(Compassion、Commitment、Cheer)

週次でD7・D30の継続率と利用頻度を確認し、躓きが多い場面を重点的に直す

成功した手順やプロンプトをテンプレート化し、チーム内に公開

完了の目安:D30 Retention 35〜45%、テンプレート経由の作成が全体の2割前後

フェーズC:標準化(61〜90日)

目的:横展開(Expansion)と品質の底上げ

Social Dynamicsを制度化(Connected、Collective)

月次で共同編集率、テンプレ再利用率、他部署からの新規流入を確認

Risk-Adjusted Valueを算定し、次の投資やガバナンス更新に反映

完了の目安:共同編集率 25%前後、公開テンプレートが一定数に達し、再利用が継続的に増えていること

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